後悔しないために知っておきたい5つのリスク
「歯並びが気になるけれど、治療に時間がかかりそうだし、費用も高そう…」
そういったお悩みをお持ちの方に向け、“部分矯正”を行う歯科医院が増えてきています。
短期間で費用も抑えられ、見た目もキレイになるというのは、まるで夢のような治療に見えますよね。
しかし、一方で「部分矯正に警鐘を鳴らす声」もあるのです。インターネット上では「安い」「キレイ」といった広告が多く見られますが、本当に問題はないのでしょうか?
ここでは、部分矯正と全体矯正を比較しながら、考えておくべきリスクや注意点をまとめています。ぜひご参考にしてください。
歯科矯正の歴史から見る咬み合わせの重要性
歯並びが悪いと健康に影響があると考えられていたのは、実は古代ローマ時代にまでさかのぼります。当時の医師は、永久歯の位置が悪い場合、指で押して元に戻すように指導していたとも言われています。
近代的な矯正の起源は、1903年にエドワード・アングル博士が「矯正歯学」の理論を発表したことに始まるとされています。その後、多くの研究者によって技術が進歩し、今日のさまざまな矯正方法へと発展してきました。
従来は金属製のワイヤーやブラケットが主流でしたが、装置の見た目を気にする方が増えたことで、マウスピース型の矯正が普及。さらに、このマウスピース矯正を部分的に適用する“部分矯正”が短期間かつ安価な治療法として注目されています。
「歯並びを整えるだけ」が矯正の目的ではない
矯正治療と聞くと、見た目の改善に目が向きがちです。しかし、咬み合わせ専門医をはじめ、多くの歯科医は「歯並び」と同時に「咬み合わせ(咬合)」を重視します。
咬み合わせの状態は、健康や生活の質(QOL)にも影響を及ぼすため、公益社団法人 日本矯正歯科学会も以下のように述べています。
矯正歯科の目的は、歯並びと咬み合わせの改善にあります。さらに良好な咬合を維持することで患者さんのQOLを向上させることを目指します。
患者さんから見ると、「前歯だけ動かしたい」ケースでも、歯科医が咬合の重要性を説明すると、「不要な治療をすすめられているのでは?」と思われることもあるでしょう。そこで必要なのは、患者さんが理解しやすい説明と、歯科医師との信頼関係です。
抜歯か非抜歯か? それぞれの考え方
矯正治療を検討する上でよく話題になるのが、「抜歯をするか、しないか」。
永久歯は親知らずを含めると32本あり、親知らずを除いた28本が上下できちんとかみ合っている状態が理想とされます。顎のサイズに対して歯の大きさが合わない場合は、歯が重なりやすいため、抜歯してスペースを作ることで歯並びを整える方法があります(抜歯矯正)。
一方、「できるだけ歯を抜きたくない」という考え方(非抜歯矯正)もあります。歯を抜かずにスペースを確保してきれいに並べるには時間がかかる場合もあり、患者さんのお口の状態や、歯科医の技量・理論によって方針が異なります。
また、成長期であっても、顎を無理に拡大するには限度があるため、必ずしも非抜歯矯正が可能とは限りません。歯科医の間でも意見が分かれるため、セカンドオピニオンを取り、複数の説明を聞くことが重要です。
部分矯正と全体矯正の違い
全体矯正
- 歯全体に装置を装着し、顎とのバランスや咬み合わせを重視して歯を動かす方法。
- 期間は2年以上かかることが一般的で、費用は80万円以上が目安。保険外治療なので、医院によって異なります。
- 抜歯が必要になる場合があり、「審美面+咬み合わせ」をトータルで改善できます。
部分矯正
- 主に前歯6本など、限られた歯だけに装置を装着し、短期間で歯並びを整える方法。
- 期間は3か月〜と短期で、費用も10万円台からと安価に設定されることが多いです。
- 抜歯は原則しません。咬み合わせ全体を大きく動かすわけではなく、「審美目的」に特化している面が大きいです。
部分矯正は手軽に思える反面、「前歯以外に問題がある場合」は根本的な矯正にならないリスクがあります。土台(咬み合わせ)が良好である前提で前歯だけを動かすからこそ短期間・低コストで済むため、診断力と技術力が重要です。
部分矯正で知っておくべき5つのリスク
- 歯の削りすぎ
前歯を並べるスペースが足りない場合、歯の側面(エナメル質)を削ってスペースを作ることがあります。スキル不足の歯科医師だと削りすぎるリスクも。 - 移動スペースの不足
前歯だけを動かすため、歯並びが大きく乱れている場合はきれいに整いにくく、仕上がりに不満が出る可能性があります。 - 奥歯を動かしすぎる恐れ
スペースが足りないと奥歯を外側へ動かして対応する場合があります。咬み合わせへの配慮が不足すると、噛み合わせが合わなくなることも。 - 後戻りしやすい
短期間で歯を動かすと、そのままでは元の位置に戻ろうとする力も大きいです。きちんとした保定(リテーナーの装着)を怠ると、後戻りのリスクが高まります。 - 技術レベルの差
歯科医師にはそれぞれ専門分野があるため、矯正に特化していない医師が安易に部分矯正を提供しているケースも。十分な経験と知識がないと、予期しないトラブルに発展することがあります。
全体矯正における5つの注意点
部分矯正に限らず、全体矯正にもリスクやデメリットが存在します。主な注意点は以下のとおりです。
- 虫歯や歯周病のリスク
矯正装置を長期間装着するため、ブラッシングが行き届かず、虫歯や歯肉炎・歯周炎のリスクが高まります。 - 治療期間の延長
計画通りに歯が動かず、予定より期間が長引く場合があります。装置や手技が不適切なケースでも治療が延びることがあります。 - 患者さんのモチベーション
長期の治療期間と費用がかかるため、途中でやる気を失ってしまうと結果にも影響が出る可能性があります。歯科医師とのコミュニケーションがカギです。 - 歯肉退縮や歯根吸収
強い力で歯を動かしすぎると、歯肉が下がる、あるいは歯の根が吸収されることがあります。適切な力加減で治療を進めることが重要です。 - 顎の拡大リスク
非抜歯矯正のために顎を拡大しすぎると、後戻りが大きくなったり、歯根が骨から飛び出す事例も報告されています。
咬み合わせ専門医を探す際のポイント
矯正治療は、歯科医師の知識・経験・技量によってリスクが大きく変わる治療です。歯科医師にも専門分野があり、「咬み合わせ専門医」が在籍している医院は、より適切な矯正治療を受けられる可能性が高いでしょう。
歯科医院を選ぶ基準
- 歯科医師の得意分野・実績:医院のホームページやカウンセリングで、咬み合わせに詳しい医師が担当してくれるか確認しましょう。
- 総合的な治療体制:虫歯や歯周病治療も含めてサポートできる医院であれば、矯正中のトラブルにも対応がスムーズです。
- 症例写真・体験談:治療前後の写真や、実際に治療を受けた方の声を参考にすると、イメージがつきやすいです。
- セカンドオピニオンを活用:疑問がある場合、他の医院にも相談することで納得のいく治療方針を選択できます。
まとめ
部分矯正と全体矯正は、治療期間や費用、目的が大きく異なります。
- 部分矯正:短期間・低コストで主に前歯の見た目を整えられるが、咬み合わせを大きく動かせない。条件が合う人にはメリットも大きいが、リスクや適応範囲をしっかり確認する必要がある。
- 全体矯正:咬み合わせから歯並びまで包括的に治療できるが、時間も費用もかかる。
どちらを選択するにしても、信頼できる咬み合わせ専門医(歯科医師)や歯科医院を選ぶことが大切です。治療の最中や終了後、後悔しないためにも、十分な情報収集とカウンセリングを受け、納得したうえで治療に臨んでください。
「歯並びが整うと、笑顔が変わるだけでなく、健康面でもメリットがある」
これは多くの患者さんが実感していることです。矯正は人生における大きな投資だからこそ、しっかりと情報を集め、後悔のない選択を目指しましょう。
もし気になることがあれば、複数の医院を回ってセカンドオピニオンを得ることや、カウンセリングを活用することをおすすめします。ご自身のお口の状態を理解し、最適な治療方針を共に考えてくれる医院がきっと見つかるはずです。
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